History

地域発展を支えた
インフラの変遷

古代‧中世の公共事業
基盤形成と水利の知恵

古代の九州では、約9,500年前の上野原遺跡に見られるように、定住集落の形成とともに水資源の確保が重要な課題でした。『日本書紀』に記される日本最古の用水路「裂田の溝」は、大規模な水利事業の萌芽を示しています。中世には、大分県の緒方川流域で「井路」(用水路)が増え、棚田景観が形成されるなど農業土木技術が発展しました。しかし、律令国家体制の弱体化に伴い、福岡市域では治水機能が不全となり、生産基盤が移動する現象も見られました。これは、公共事業の持続には技術だけでなく、それを支える政治的‧経済的基盤が不可欠であることを示唆しています。

江戶時代の公共事業
藩主主導の治水‧交通網整備

江戶時代には、各藩が領地の生産性向上と⺠衆の安定のため、藩主主導で大規模な治水‧利水事業を推進しました。熊本では「土木の神様」と称される加藤清正が、白川流域で「井手」(用水路)を整備し、その一部は400年経った現在も農業用水を供給しています 。佐賀平野では成富兵庫茂安が、激しい干満差のある有明海と結ばれた川の治水に取り組み、「千栗堤」を築いて水害を軽減しました 。また、江戶幕府は災害時の仮小屋設置や炊き出し、復旧費用の貸し出しなど支援システムを構築し、藩を超えた広域的な防災協力体制も築かれました。街道や港湾の整備も進められ、福岡市では明治期の築港に江戶期からの港湾利用の歴史が背景にあります。

近代化を支えた公共事業
明治から戦前までのインフラ構築

明治時代、九州は日本の産業革命を支える電力インフラの整備が急速に進みました。明治43年(1910年)に麻生太吉が嘉穂電灯を興し、九州水力電気の設立に参画するなど、⺠間資本が電力事業を牽引しました。鉄道網も発展し、明治22年(1889年)に半官半⺠の九州鉄道が開業。特に北部九州の産炭地(筑豊炭田、唐津炭田)の石炭輸送のため路線を張り巡らせ、日本の重工業化に貢献しました 。明治40年(1907年)の鉄道国有法により、九州鉄道は国有化され、九州の主要鉄道網は国の管理下に置かれました。三池炭鉱の発展は、専用鉄道と三池港の整備と不可分であり、団琢磨の先見の明により、港は現在も稼働し地域の基盤となっています。

戦後復興‧高度経済成⻑期の
公共事業国土開発と産業基盤の強化

第二次世界大戦後、日本の復興と高度経済成⻑を支えるため、大規模な公共事業が推進されました。電力供給の安定化のため、宮崎県上椎葉ダムのような日本初の巨大アーチ式ダムが建設され、電力供給、治水、利水に貢献しました。九州地方整備局が管理する厳木ダムや⻯門ダムなども、地域住⺠の安全と暮らしを支えています。陸上交通網では、九州自動車道が1995年(平成7年)に全線開通し、物流と人流を飛躍的に向上させました。鉄道網では、1975年(昭和50年)に山陽新幹線が博多まで開業し、本州とのアクセスが改善 。2011年(平成23年)には九州新幹線(鹿児島ルート)が全線開業し、福岡-鹿児島間の所要時間を大幅に短縮 。2022年(令和4年)には⻄九州新幹線も開業し、九州内の新幹線ネットワークが拡充されています。

現代の公共事業
持続可能性と地域活性化への転換

現代の公共事業は、経済成⻑だけでなく、環境との共生、持続可能性、地域活性化へと目的を転換しています。北九州市では2003年(平成15年)から「エコタウン事業」が始まり、国内有数のリサイクル拠点となっています。九州大学では2040年度までのカーボンニュートラル‧キャンパス実現を目指すなど、脱炭素化への取り組みが進んでいます。再生可能エネルギーの地産地消も推進され、太陽光発電やEV化などが進められています。
治水対策では、筑後川水系で国、県、市町村が一体となった「流域治水」が推進され、ハード‧ソフト両面から防災‧減災対策が実施されています。九州地方は自然災害が多く、国土交通省九州地方整備局は災害発生防止と迅速な復旧に努めており、近年も河川改修や耐震補強、津波
避難タワーなどが効果を発揮しています。
デジタル技術の活用も進み、AIやICTを活用したスマートシティの推進が地域課題解決を目指しています。福岡県では官⺠データ連携基盤の構築が進み、大分県では行政手続きの電子化やAIカメラによる不法投棄対策が導入されています。公共事業の現場では、ドローンや新型VTOLドロー
ンを用いたDXの実証実験も行われ、インフラ管理の効率化が期待されています 。
人口減少‧高齢化社会への対応として、国土の最適利用‧管理、所有者不明土地‧空き家の利活用、官⺠連携による公共サービス維持などが図られています。AI‧デジタル技術を活用したドローン配送などにより、地方の社会課題解決と豊かな社会の実現を目指しています。

未来への展望
持続可能な地域社会の構築に向けて

九州の公共事業は、古代から現代まで、その時代の要請と技術革新の中で進化してきました。未来に向けては、気候変動への適応、人口減少‧高齢化社会への対応、デジタル技術の活用が重要です。カーボンニュートラル社会の実現、再生可能エネルギーの導入、環境負荷の低いインフラ整備、そしてデジタル技術を駆使した防災‧減災対策やスマートシティの推進が、安全で豊か、そして持続可能な地域社会の実現を目指す九州の公共事業の重要な方向性となるでしょう。